教育サービスがシンギュラリティを生き残るヒント

by Junichiro Zushi

ベストセラー「シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき」によれば、テクノロジーによって21世紀中に実現するバラ色の未来は次のようなものです。

 

・クローン技術によって食料を生産できるようになり飢餓がなくなる

・エネルギー問題が完全に解決する

・ワームホールを生み出しワープできるようになる

・霧状のナノボットによりヴァーチャル・リアリティが現実空間で実現される

 

まさにSFの世界のような話ですが、先日、政府の「人工知能技術戦略会議」(議長・安西祐一郎日本学術振興会理事長)がAIの産業化に向けた工程表を発表しました(2017/3/3日本経済新聞)。AIが我々の予想は遥かに超えるスピードで仕事の現場に浸透してゆくことは、どうやら間違いなさそうです。

Stanley Kubrick in 2001: A Space Odyssey (1968)

Filmography links and data courtesy of IMDb.

昨今、メディアやネットを通じてシンギュラリティというバズワードが喧しい。

 

レイ・カーツワイル[i]によると、AIがTechnological Singularity(技術特異点)を超え、「2045年頃には、1000ドルのコンピューターの演算能力がおよそ10ペタFLOPSの人間の脳の100億倍にもなり、技術的特異点に至る知能の土台が十分に生まれて(Wikipedia)」この時期までに社会が根底から変容している、と予測するものだ。

 

メディアのタイトルは刺激的だ。AIが人類の知能を超えて、私たち人類はAIを最早コントロールできなくなってしまう。ほとんどの人間の仕事をAIに奪われてしまう。AIに支配されたり、攻撃されたりしてしまう可能性がある、etc…「ターミネーター」や「マトリッス」の世界が30年以内に現実のものになる、、、というのだ。

 

たしかに、そのような面もあるのだろうが、本来のシンギュラリティの定義は若干異なる。

「人間の生物的進化はあまり進まないが、そこをテクノロジーの進歩で超えよう」(日経BPネット:「シンギュラリティで人類はどうなるのか」中島秀之[ii]×松原仁[iii] Part.3 2016.08.08)というのが、本来の定義だと言われており、むしろ進化したAIをどのように人類のサポート役として役立ててゆくか、という明確な視点を持っている。

 

そのような視点でシンギュラリティを語るとき、George Orwell[iv]風のAIに支配された恐ろしい未来は、ハッピーな未来図に姿を変える。自動運転技術の進展は、高齢化社会において、より安全で容易な人の移動を可能とするだろう。また医療の分野においても、最先端の医療技術をどこでも享受できるようになる時代をもたらす。英語については、メガネに瞬時に相手の言葉が翻訳され表示されるようになり、フリーで(コストを全くかけず)高度な翻訳のサービスが受けられるようになるのだろう。

 

まてよ、、、ということは、便利になる一方で、やっぱり、ほとんどの職業は、AIやテクノロジーに置き換えられてしまうのだろうか?

 

おそらく、そのようにはならないだろう。

 

ビジネスの現場で日常頻繁に経験する、「今は直截的な回答は避けておこう」、「この話は一度持ち帰って上司と相談を」といったシーンの対応はロボットには難しい。また、AIが会社を経営してビジネスの交渉をしている姿も、すぐには想像しがたい。そう考えると、人間が経営の最終的な意思決定を行う前提で、前後のビジネス・コンテキストの中で臨機応変な対応が求められる場面では、これからもかなりの程度で人間の活躍が期待されるのではないか。

 

もう一つ基本的だが重要なことは、マーケットの多くの分野が生身の人間を需要家として対象にしている点だ。一般の人々の多くは、不気味の谷を越えたアンドロイドによる疑似サービスと平行して、これからも本物の人間による、やや高額だが気配りの行き届いたかつ自然なサービスを求め続けるだろう。そこで生き残っている教育サービスは、もはや吉本興業と同じ高度なエンターテインメント産業である。

 

2045年までの展望は持ちえないが、英会話レッスンなどヒューマン・ファクターを持つビジネスの生き残りのヒントはそのあたりにありそうだ。

 


[i] Ray Kurzweil 著作にThe Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology(シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき)

[ii] 東京大学 特任教授

[iii] 公立はこだて未来大学 教授

[iv] 1949年6月8日に『1984年』に出版された小説で、市民は常時双方向テレビジョンと町なかもセットされたマイクで当局の監視下に置かれている。

図師純一郎、東京都出身。UCSB (カリフォルニア大学サンタバーバラ校)にてMaster of Arts (MA) in Political Scienceを取得後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行。海外の現場で現地企業取引を中心に第一線の業務を担当。外資系銀行に転じ、Vice Presidentに就任。その後も大学で教鞭を取るなど活動の幅を広げる。2015年にアレクシス株式会社を共同設立し、代表取締役CEOとして現在に至る。現場の「臨場感」のある本物のビジネス英語を、若いビジネスパーソンにやさしく伝えたい、という熱い思いは常に変わらない。