“Fiduciary Duty” 『受託者に課せられた義務』の衝撃度

By JUNICHIRO ZUSHI

「フィデューシャリー・デューティー (“FD”)」、一年ほど前からいつの間にか広まった不可解な言葉だ。「受託者責任」と訳され、金融当局も本格的な浸透を目論んでいる。投資信託や保険商品などのリスク商品を扱う金融機関は、FD対応のため第三社委員会を設置したり、早くもこの新しい概念に翻弄されつつる。

FDには、「顧客から信用されてお金を託される『fiduciary(=受託者)』に課せられた、顧客の利益を最も重視する『duty(=責任、義務)』(「日本経済新聞「金融庁、顧客本位を問う 行政方針、今月末にも改定 金融機関、本気度探る」2016/9/21付」 *1 という意味が込められている。一見、おなじみの「善管注意義務(“the due care of a prudent manager”)」が思い浮かぶが、企業に与えるインパクトはその比ではない。

 

FD導入後、金融機関は、受託者として顧客利益のために尽くす義務を負うことになり、自社グループが開発したリスク商品を安易に販売することができなくなる。これは、他社の商品の方が優位であれば、当然そちらの販売を優先せざるを得ない、という事を意味している。

 

こうなると金融機関は、リスク商品の販売体制や管理手法の再構築など多方面において、具体的なFD対策の進展を求められる。そもそも「受託者責任」を幅広く金融機関に課すのは世界的な流れで、米国やEUでも規制強化が進んでいる。金融庁主導の日本版FDも、この流れの一環だ。

*1 “… that a company entrusted with the responsibility of managing a client's assets is obligated to do what is best for the client.” (“Japan's finance industry fears new fiduciary duty rules”, NIKKEI ASIAN REVIEW, September 21, 2016)

日本法における「善管注意義務(“the due care of a prudent manager”)」と「忠実義務(”duty of loyalty”)」は、英米法上のFDにおいて受託者が負う「信任義務」に相当する概念といわれる。これまで日本の金融機関はリスク商品の販売に際して、これら日本法上の義務を果たすため、専ら「ルール遵守」に務め顧客利益の保護を図る責務を果たしてきた。

 

しかし、FDが金融機関に求める義務は、「顧客のBest Interest実現のために尽くすこと」である。ルールの遵守だけでは、必ずしも顧客のBest Interestのために尽くしたことにならないのだ。金融当局による狙いには、当然ながら欧米と比べて出遅れた日本市場の信認の確保があるのだろうが、実はこれがFD導入のシンプルかつ最大の目的ではないだろうか。

 

今後、フェア・ディスクロージャー規制をはじめとして、顧客利益の保護が一層強化されることは、消費者としては前向きに捉えて差支えない。しかしこれを義務として課されることになる金融機関にとっては、FDの導入による経営負担と労力の増加は甚大だ。FDという外来種の登場に、各金融機関は当事者として真剣な対応が求められるが、必要以上に委縮することなく、顧客志向の更なる向上の契機として前向きに捉えてみたい。

 


図師純一郎、東京都出身。UCSB (カリフォルニア大学サンタバーバラ校)にてMaster of Arts (MA) in Political Scienceを取得後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行。海外の現場で現地企業取引を中心に第一線の業務を担当。外資系銀行に転じ、Vice Presidentに就任。その後も大学で教鞭を取るなど活動の幅を広げる。2015年にアレクシス株式会社を共同設立し、代表取締役CEOとして現在に至る。現場の「臨場感」のある本物のビジネス英語を、若いビジネスパーソンにやさしく伝えたい、という熱い思いは常に変わらない。